1817年のイタリア馬車旅行

1817年刊フランス語版イタリア旅行ガイドブック(Vallardi, Itinéraire d'Italie, Milan, 1817)の翻訳を通じて、19世紀初めのイタリア馬車旅ルートを辿る

[ミラノ~ヴェネツィア①]ミラノ~ブレシア

*IX. VOYAGE (pp. 46-)

 

ミラノ~ブレシア間 途中6駅(コロンバローロカッサーノ~カラヴァッジョ~アンティニャーテ~キアリ~ロスペダレット) 合計9時間

 

ミラノからブレシアまで、旅行者は美術の面で注目すべきものには出会わない。ベルガモを通る場合、旅程は以下のようになる。

ミラノ~コロンバローロ~ヴァプリオ~オジオ~ベルガモ~カヴェルナーゴ~パラッツォロ~ロスピダレットブレシア

ラ・カノーニカの近くで、船でアッダ川を渡る。付近に美しいカラヴァッジョ宮が見える。アッダ川の川辺からは、田舎の家々と庭、林からなるすばらしく甘美な眺望が見られる。

ベルガモ地方は肥沃で人口の多い土地で、勤勉な住民によって耕されている。いくつもの運河によって潤っている平野は、耕作者の勤勉かつ丁寧な仕事を豊饒によって報いている。ベルガモの領域を分け合っている村々は、農耕に最も高度な完璧さをもたらすという栄誉をめぐって互いに争っているようである。ベルガモに近づくにつれ、山の上に位置する美しい町と城外区が見える。山の頂上には城があり、森に覆われたどこまでも広がるすばらしい平原を一望する。

王領都市ベルガモは、それほど大きくなく、大変美しい場所にあり、城外区と合わせて2万7千人ほどの住民が住む。サン・レオナルド城外区には、8月に開かれる大きな市場のために半世紀前につくられた建物がある。これはこの種の建物のうちイタリアで最も美しいもののひとつで、約600件のきれいに並んだ店舗と大きな広場、中心に美しい噴水がある。市場の向かいには、かなり大きな劇場と美しい散歩道がある。町には劇場がもうひとつあり、建築家ポッラッキが設計したもので、非常に優美かつ便利である。この町には司教座聖堂がひとつあり、フォンターナ騎士の設計に基づいて建てられ、ヴェネツィア派の良い近代絵画がある。ここでは町の守護聖人聖アレッサンドロの遺体が拝まれている。サンタ・マリア・マッジョーレ教会は、フランチェスコ・バッサーノ、カミッロ・プロカッチーニ、ジョルダーノ、フェッリ、カヴァーニャ、リベリその他良い近代画家たちの良い絵を有している。教会の近くの礼拝堂では、最初に野戦で大砲を用いたとされる著名な傭兵隊長コッレオー二*1の墓を見ることができる。ティエポロと、その後には他の近代画家たちがこの礼拝堂の天井画を描いた。中央祭壇の絵画のうち、聖家族を描いたものは有名なカウフマンによるものである。また、何人ものイタリアの芸術家がこの礼拝堂を美しい木製作品で彩るために競い合った。サン・タレッサンドロ教会、サント・スピリト教会、サン・バルトロメオ教会にも良い絵画がある。サンタ・グラータ教会では、装飾の豊かさと金で覆われた壁にとても驚かされる。ヌオーヴォ宮はスカモッツィの建築である。ベルガモの大広場には著名な詩人トルクァート・タッソの像がある。アカデミア・カッラーラでは、大変美しい絵画の貴重なコレクションがある。コレクションを増やし、公共教育を担う美術教授たちを維持するために、同名の一族が複数の年金を拠出している。ヴァリエッティ宮はとても優美な設計である。テルツィ宮、マッソーリ宮、モローニ宮、ソッツィ宮でも良い絵画が見られる。町の城壁上には美しい公共の遊歩道がある。オジオ門の外にも遊歩道が続いている。サン・タゴスティーノでは有名な辞書編集者アゴティーノ・カレピーノ*2の墓がある。この町の商業は毛織物、絹織物、鉄の取引である。旗製造業の評判が大変高い。主要な産物はワイン、油、一級品の果物である。田園地方では多くの羊が育てられている。アルレッキーノ*3の変装は、機知に富み繊細なベルガモ人の身振りや発音、方言を真似たものである。彼らは産業と商業を好み、とても健康的な気候で暮らしているため、頑強で健康である。

ベルガモからブレシアへは、アルプスの連峰から2、3マイルの距離を並行して進む。こちら側の田園地帯も同様に人口が多く、肥料の選択と灌漑によって自然状態では豊かでないであろう土地をまさに庭園へと変えた勤勉な住民のおかげで肥沃である。町とアルプスの間の平野は豊かで非常に美しい。かなりの広がりがあり、遠く向こう側にはブレシアから30マイルのクレモナが見える。

ベルガモから同じ距離のところにブレシアの町がある。周辺には非常に産出量の多い鉄鉱山と銅鉱山がある。

ティロルに向かう道路を進むと、イゼーオ湖がある。湖畔には同名の小さな町がある。

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ブレシアは、メッラ川とナヴィリオ川の間の山麓に位置する。4m周囲の中に約4万5千人の住民が暮らす。町は高台に建てられた良い城塞によって堅固に守られている。大きな広場にある裁判所は、その威容と、ゴシック趣味がギリシャ趣味と混在する建築様式のために非常に注目すべき建築物である。中には美しいフレスコ画と注目に値するいくつもの絵画がある。大聖堂は荘厳な近代建築で、民衆の多大な崇敬を集める十字架を保管している。この教会には彫刻、絵画その他の貴重な装飾物が豊富にあり、大部分が著名なクイリーニ枢機卿の寛大さによるものである。他の裕福な家族も倣って建築物の維持と完成のための基金を寄付した。奇跡の聖母教会には複数の良い彫刻と絵画があり、中でもブレシアのモレットの作品が注目される。他の教会、特にサン・ナザーロ教会、カルミネ教会、サン・ターフラ教会ではヴェネツィア派の評価の高い絵画が見られる。サン・ターフラ教会に付属する修道院は良い建築である。アヴォガードリ邸はパオロ・ヴェロネーゼ、ティツィアーノなどの貴重な絵画を有する。最も美しい邸宅は、司教宮殿、マルティネンゴ・デッラ・ファッブリケ邸、マルティネンゴ・カザレスコ邸、ガンバーラ邸、フェナローニ邸、バルガーニ邸、ウジェリ邸、カリーニ邸、フェ邸、バルビゾーニ邸、チゴーラ邸、スアルディ邸で、これらにおいても最も著名な画家たちの絵画を鑑賞することができる。ブレシアの劇場は かなり美しく、良い趣味である。マッズッケッリのメダルコレクションは有名である。また、クイリーニ枢機卿が設立した公立図書館も必見である。二つのつながった部屋に物理学の機械、デッサン、美術研究のための見本、さらにかつてマルティネンゴ・フェルディナンド家が所有していた豊富な版画コレクションがある。馬車と歩行者のための美しい公共の遊歩道が最近つくられた。この町には公共のものも個人のものも含め多数の美しい噴水があり、町の隣の丘から水を引いている。

ブレシアの商業、産業、手工業はかなり大規模である。主要な産物は武器、とりわけ評判の良い大砲と、リネン、毛織物、レースである。民衆は一般に誇り高く、頑強で、勤勉で働き者であり、スイス人によく似ている。女性も働き者で立居振舞いが良いが、率直で朗らかな性格である。

アルプス側のブレシア地方は、心地よく人口が多い。ブレシアの川は喜ばしい場所といえる。この地の鉄鉱山と銅鉱山は仕事と商業を生み出している。ヴァルカモニカとソネーゴ湖の周辺からはトパーズの結晶が採れる。

*1:原文ではColleone

*2:アンブロージョ・カレピーノ(Ambrogio Calepino, c. 1440-1510)の間違い。

*3:即興喜劇に登場する道化師のキャラクター。